漠然とした不安を持つ自分と向き合いたい-朝井リョウ「何者」を読みました
こんにちは。
最近学校がスーツの人々で溢れています。
就職活動が始まり、学校で合同説明会が連日開催されているようです。
それについて思うことは様々ありますが、一つ、大きなものは「私は就活ないし就職ができるのだろうか」ということです。
私は来年一般的に就活する時期になりますが、自分が就活しているイメージが湧きません。
ぴしっとスーツでキメて、自己分析をしたり、OBOG訪問をしたり、会社説明会に参加したり、面接をしたり……等々?
それすらもわかりません。
イメージできていようが、いまいが就職すると決めたら就活は避けて通れないでしょう。
漠然とした不安が募るばかりで、リクルートスーツの人を見るとそれを思い出してしまうので辛いですね……。
朝井リョウさんの小説「何者」を読みました。
読んで、いろいろと思ったことがあったので書きます。
最初に言いますが、ここではネタバレはしません。
しかし文章上内容の要約程度はしています。また、Amazonの内容紹介の引用をしています。
もともと学校の上級生に薦められたものでした。
ふと思い出してAmazonのページに飛びましたが、上記の通り就活に関して不安ばかりなので紹介文の「就活を題材としている」を見て購入を一瞬躊躇いました。
内容紹介
就職活動を目前に控えた拓人は、同居人・光太郎の引退ライブに足を運んだ。光太郎と別れた瑞月も来ると知っていたから――。瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、理香と同棲中の隆良を交えた5人は就活対策として集まるようになる。だが、SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする、本音や自意識が、彼らの関係を次第に変えて……。直木賞受賞作。
しかし、好奇心は不安に勝つ。
レビューでは「twitterで牽制しあう様子が描かれている」等と書かれていました。「twitterで」。
「牽制」。
これらのワードが私の好奇心にクリーンヒットし、購入に至りました。
すごく心当たりがあったんだと思います。
暫くの間は資格勉強やらなんやらで放置していました。
それらが終わって、開放感で小説が読みたい!となる。
kindleを開く。そういえばこの小説も買ったな。読もう。
という流れで読み始めました。
一つ、
刺さる。
当初の小説読みたい欲は1/3読んだ程度でいっぱいになりました。
刺さったのは4つ程。
詳しくは書きませんがなんとなく書いていきます。
それも自分で探しながら読みたい!という方は飛ばしたほうがいいかも。
-
①twitterでのあれこれ。
この小説の登場人物の多くはtwitterを使っていて、その投稿内容も本文に挟まれます。
その世界を生きている彼らが、140文字という限られた文章の中で伝えたいこと。
伝えたいけど、書かないこと。
書かないけど、大事なこと。書くけど、大事じゃないこと。
大事だから書くけど、短い言葉に加工すること。
「SNSでは、短い言葉で自分をアピールする」という点に対し、主人公は一つの考えを持っています。
その後紆余曲折あって、この点に関しては一つの結論のようなものも示されます。
その考え方がいいのか悪いのか、わかりません。
でもきっとそれが真実なんでしょう。
私もそうですから。
ネタバレを割ける余り何だかふわっとしてしまいましたが、この点は特に過程も含めて読んでほしい部分です。ご理解ください。
他の本の受け売りですが
自分の気持ちをネット上に書こうとすると、普段から見られることを意識して気持ちを感じてしまう癖がついてしまいがちだそうで。
ブログを書いている身としては非常に刺さるのですが、文章を書くことも楽しいから続けている次第です(刺さりっぱなしで自分の中で咀嚼できていないことも感じているので、一度考えたい)。
-
②会話を交わしていく上でのあれこれ。
SNS上においても、現実においても。
「明言はしないけどこの人は自分の為に、きっとこう言ってほしいんだろう。なんて奴だ。」みたいな(本文の引用ではありません)。
思惑が交錯する感じ。
当に「牽制」。
私はこういうことを考える自分があまり好きではなかった。
一時期、すごく悩んで、考えた記憶がある。
だからこそ「他の人(登場人物)も同じように思考を巡らせたりするのか?」と興味が湧いた訳ですが。
-
③「何者か」になろうとしている様子
この小説の登場人物の多くは「『何者か』になろうとしている」と描写されています。
あくまで主人公視点で、ですが。
私も何者かになろうとしていたんだと思います。
所属でアイデンティティーを意識したり、振り返ると訳の分からないマウンティング発言をしていたり。
でも私は脱した、と思っています。嘘です。
今も少し、何者かになろうとしていると思います。
しているけど、そういうのは空しいとわかっているし、結局意味はないから他のことに労力を割いたほうが有意義だし……ネタバレになりそうなのでやめます。
読んでいてこういう思考回路だったんだな、と。
理解はしているけど考え方に癖がついていることを再確認しました。
小説の終盤は力強さがありました。
ジェットコースターで例えるなら、一気に上り詰めて、頂点に到達する。
そしてエピローグは緩やかに進行。緩やかなまま終わるので、地上まで辿り着いていない。
もっと登場人物のその後を読みたい。
この世界の「模範解答」を知りたい。
就活がテーマだからこそ、より強くそう思ったのかもしれません。
でもきっと、「自分で考えろ」ってことなのでしょう。
登場人物のその後は私のその後ではないし、正解でもないし。そもそも正解かどうかなんて誰にも判らないし。
そんなこと、誰でもわかっているはずなんですけれどね。
-
④「そのステージに上がってすらいない」こと
私は小説を読むときに、どうしても登場人物と自身とを比較してしまいます。
そしてこのキャラは自分に似ている、似ていないと考えてしまいがちです。
でも、どの小説でも一貫して思う。彼らとは違うところ。
「私はここまで激しい気持ちをぶつけられるほどの行動をしていない。」
私はまだそのステージまで上がっていない。上り方もわからない。
「怒られたり、泣かれたりしてもその反応がもらえるだけいいじゃないか。」
といつも思います。
登場人物は自分の気持ちをぶつけます。
お互いにぶつけあって、ボロボロになって、成長していきます。そうしないと物語が進まないから当たり前と言えば当たり前のことですが。
この小説でも、主人公は尖った言葉で、激しい気持ちをぶつけられます。
読み終わった瞬間「その部分」についてはあまり感じていませんでした。
なぜなら自分はまだそのステージにすら立っていないから。
尖っていても、ちゃんと考えられたまっとうな言葉だ。ぶつけられるだけ、羨ましい。
しかし、少し経って、毒が回ってきたようにじわりじわりと刺さる。
「その部分」こそ「まだそのステージに上がってすらいない」私のことではないか。
確かに主人公は一部では自分の気持ちを出しているが、一部は、違う。
人だから当然だろ、って感じですが大抵小説の中ではスルーされます。
でもこの世界にはtwitterがある。
つまり、少し状況は違うが「その部分」は「私にぶつけられているんだ」と思い始めました。
「まだそのステージに上がってすらいない」。
多分、逃げているのだろうな。
人に不格好な姿を見せたくないから。でも、羨ましい。じゃあやるしかないのでは?
「上り方がわからないから仕方ない」。
わからないなら、聞くか、わからなくても、試しまくればいいのではないか。
結局逃げている。そんな自分はずるい。
未だにじわじわと刺さり続けています。
この文脈だと先の「書かないけど、大事なこと」を書きそうですね。
刺さったけど、私はどうするんでしょう。正直まだちょっとわかりません。
自分がずるいのはわかったけど、染みついた動き方を変えるのは難しい。それは私と接している相手も同じだと思います。
試しまくったとして、どのくらいで効果が出るのか(それが就活の時期と重なって、余計に生き辛くなったりしないか)とか、わからないから聞きたいけど、どうやって?とか。
とりあえず「試しまくる」に寄ってみよう思います。
とりあえず現状で。その先はわかりません。
その先はわかったとしても、多分「書かないけど、大事なこと」になりそうです。
書くと自分で意識しすぎて固まってしまいそうなので。
いろいろ書きましたが
【就活生は小説「何者」を読め】
ってすごく言いたいですね。
「『何者か』になろうとしている」下りは就活生は特に意識する部分でしょうし。
一応年上なので、訂正します。
【就活生は小説「何者」を読んでください。】
もちろん、就活生以外も読んでいただきたい。
話の進行上SNSによく触れる人のほうがとっつきやすい(というかとてつもなく刺さる)と思います。
が、普通に生きている一定年齢以上の人なら何かしら得られるものはあると思います。
これも半分他の本の受け売りですが
何の本でもそうですが、なんとなく結末がわかっていても、そこに至る過程の一から十まで明文化されているものを読む。
そこにこそあなたにものがあるかもしれないし、過程を経てきた結論だからこそ気づくことも沢山あると思います。
さて、一番最初に書いた私の就活に対する漠然とした不安。
それはどう変化するのでしょうか。もしかすると、変化しないかもしれません。
それでもきっと、やっていくのでしょう。
ここまで書いて、今はそんな気持ちです。
それでは、楽しい(読書)ライフをお過ごしください。